8. 言葉の整合

はじめに

言葉は、「共有」や「相互理解」を目的とし、
相手の理解の中に着地してはじめて、その役割を果たします。

独り言や、言葉にならない思考でさえも、
「自分との対話」という形をとった、ある種の“共有”だと言えます。

しかし独り言と発信が決定的に違うのは、
途中で生じる可能性のある「伝達摩擦」です。

ここで言う伝達摩擦とは、言葉が相手の理解へ辿りつくまでに生まれる
ごく小さな抵抗や、意味の“わずかなズレ”のことです。

このズレが大きいほど、発信は本来の意図から外れていきます。
逆に、この摩擦が小さいほど、放った言葉はまるで自然にそうなったかのよう
相手の世界へ浸透していきます。

ここで扱う 「整合(Alignment)」 とは、
この伝達摩擦を最小にするための工程です。

整合が「扱わない」領域

まず押さえておきたいのは、
整合は、例えば次のような行為とは異なる、ということです。

  • 相手の意見に合わせる
  • 気に入られようとする
  • 世の中の流れに迎合する
  • 相手を誘導したり、操作しようとする

整合は、自分の言葉が相手の世界に無理なく届くために、
両者の文脈が重なる一点を見極めるプロセスです。

ここで、とくに注意したいのは、
この前のステージで定めた自分の基準点に
「相手を連れてこよう」とする行為です。
これを行うと、意図せず誘導や操作のような作用を生んでしまう可能性があります。

整合は、自分が相手に迎合する工程でも、
自分が相手を動かす工程でもありません。

整合とは

整合とは、揺るがない自分の立ち位置を保ちつつ、相手の世界を尊重して、
摩擦なく、互いに重なりうる点を冷静に見つける工程です。

整合のステージでは、「自分の基準点」を一度横に置きます。
そして、相手側の文脈に意識を向けます。

  • 相手は今どこに立っているのか
  • どんな前提(知識、背景、価値観)を
    持っているのか
  • このテーマに何を求めて、触れようとしているのか

相手の文脈をどれだけ現実的に読み取ることができるか。
それによって言葉の角度、深さ、密度は大きく変わります。

同じ内容でも、例えを変えるだけで届き方が変わる。
専門性の高いテーマでも、前提を一度整えるだけで理解が進むことがある。

整合とは、相手の世界の輪郭を損なわずに、
その中へ自分の言葉が自然に入っていけるように整える工程なのです。

摩擦をなくす

言葉は、発する側にも、受け取る側にも、固有の意味を形成します。

発信者側の使う「A」という言葉が、受け取る側では「A’」や「A“」であったり、
もしかしたら「B」である可能性もなくはありません。
これも摩擦のひとつの形です。

整合とは、言葉が最も摩擦の少ない形で届くように整えることです。
言い換えれば、可能な限りの発信者側の意図が、
その純度を保ったまま伝わるよう言葉を整える工程です。

相手に合わせるのでもなく、押し付けるのでもない。

この「摩擦の最小化」は、姿勢と構造の両方がそろってはじめて
可能になります。

整合の本質は、すでに見てきたように、技術よりも姿勢にあります。

整合は誘導でも操作でもありません。
そこには、過剰な謙虚さも、行動させようとする煽りもありません。

整合とはつまり、相手の世界の温度感や密度を測りながら、
言葉を整えていく工程です。
目指すのは「受け取らせること」ではなく、
あくまで 相手が無理なく受け取れる状態を整えることです。

連動プロセス

伝達レイヤーのステージ1「基準点」と、このステージ2「整合」は
それぞれ独立して働くわけではなく、むしろ一体となって機能します。

基準点が曖昧なまま整合に入ると、自分の軸が揺らぎ、
言葉の輪郭がぼやけてしまいます。

一方で、整合への配慮が欠けると、
基準点で定めたコアメッセージだけが独り歩きをし、
相手を置き去りにしてしまうことになります。

自分側(出発点)と相手側(着地点)。

この二つがクリアに見えたときにだけ、
橋は適切な角度と強度で架かりはじめます。

つまり、言葉は “自分の軸を保ちながら、
相手の世界にも無理なく届く形”へと整っていくのです。

文章技術の問題ではない

ここで、改めて注意をしたいのですが、
整合を「ターゲットに合わせたライティング法」と捉えるのは、
本質から外れます。

整合では、技術が発信を形作るのではなく、
発信の姿勢が技術を決める のです。

相手の知識や前提、理解の型や文脈を観察し、
それらを自分の尺度で評価することなく
無理なく自然に届く角度を見つけていく。

基準点が自分の立ち位置を正面から問う工程だとすれば、
整合は、自分の思惑を外して、相手を真っ直ぐに見る工程です。

自分の言葉が他者に伝わる。

これは、自分と相手の二つの世界が重なるときに成立します。
その接点を丁寧に探りながら、言葉の橋を冷静に、
確実に架けていくのが「整合」なのです。

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