はじめに
言葉にするのが「難しい」と感じられるのは、
ただ「言えばいい」「書けばいい」で済む話しではないとわかっているからです。
言葉にすることの難しさは、言い換えれば「言葉の重み」です。
それを知っている人ほど、発信に慎重にもなりますし、
言葉や表現へのこだわりも強くなります。
これまで発信者である「自分」に焦点をあててきましたが、
「レイヤー3:伝達」では、「伝える相手」を視野に入れていきます。
しかし、いきなり発信そのものに入るのではありません。
まず、発信の基準点を定めます。
基準点とは
何を伝えたいかという「想い」や「アイデア」はある。
あとは「どう伝えるか」だけ。
そんな風に思う人は少なくありません。
そうすると「発信」は表現を考え整えるところから始まるように見えます。
確かに「どう書くか」「どんな言葉を使おうか」という外側の構築は、分かりやすく、取り組みやすいものです。
ですから、いわゆる「添削」をしてもらうと、「綺麗にまとまった」「いい文章になった」ような印象を受けます。
しかし、既に「認識」と「構築」のレイヤーで見てきたように
実際に言葉にしていく前に必要な前工程をしっかり行なった後だからこそ、
言葉は必然性を持って「整っていく」のです。
表面的に「整える」作業とは別物です。
「伝達」を考える時に最初に意識するのは自分の立ち位置の確認です。
発信者として、自分がどの位置から言葉を世に放つのかという
基準点を定めることです。
「意図」の透明化
基準点は「これについて発信する」というような目標設定ではありません。
そこには明確な構造があります。
基準点を構成する要素は、次の四つです。
- 意図(Purpose)
なぜ、このテーマを扱うのか。
今回の発信の出発点と意味の方向。 - 核(Core Message)
今回、もっとも中心に据えるメッセージ。
言葉の骨格となる部分。 - 対象(Audience)
誰に向けて言葉を放っているのか。
想定する相手の輪郭。 - 視点(Point of View)
相手にどんな視座を手渡したいのか。
相手の理解の軸をどの方向に開くのか。
これらが揃うことで、言葉は内側から自然に整列し始めます。
とはいえ、これはフレームワークでもチェックリストでもありません。
迷った時に戻ってくる「内省用メモ」です。
逆に、これらが曖昧なまま発信を始めると、内容が散りやすく、焦点がぼやけてしまいます。
基準点を定めることは、外に向けて言葉を研ぐ行為ではなく
これから発信しようとする言葉の基礎を整えるプロセスです。
何の”基準”なのか
ここで、誤解のないように注意したいことがあります。
「基準点」という言葉から、例えば「合格/不合格」のような
特定の基準があるようなイメージを持ってしまうかもしれません。
しかし、ここは「橋を架ける」前の準備段階であり、
基礎工事のようなものです。
「基準点を定める」とは、外側にある何かを基準にするのではなく、
自分がどの位置に立ち、何を手渡したいのかを確認することです。
一度放った言葉は、取り戻せません。
「なんとなく」ですませて良いものではないのです。
さらに突き進めれば、発信の動機が、独善的でも利己的でもなく
純粋に「相手のためであること」を確認するプロセスです。
ここで言う「基準」とは、自分が自分に科す質のことなのです。
そこに「べき」はありませんし、「正解」もありません。
基準は、自分で決めていいのです。
そして、その基準が発信を定義します。