はじめに

「自信の付け方」第6回目、そして「自信の6要素」の4番目「姿勢」です。

今回のテーマ「姿勢」なのですが、実際には「ボディランゲージ」全般を指しています。
しかも「声」まで入っています。

「姿勢」は目に見えるので、他の5つの要素とはニュアンスが違っていて、マインドセットというよりも、技術的なHowToに近い内容となっています。

また今回は、プレゼンテーションで気をつけたい項目について、パブリック・スピーキングのコーチとして世界的に有名なNick Morganのアドバイスを参考にしながら書いていきます。

なぜ「姿勢」が大事?

これについては、端的にまとめてある研究記事があるので、その抜粋を下に載せます:

…(略)そこで、私たちは10数名の大学生によい姿勢や悪い姿勢をとってもらって写真を撮り、別の100人以上の学生にその人物について、「魅力」「信頼」「支配性」の3つの観点で評価してもらいました。ポーズの指定をしていないので、よい姿勢や悪い姿勢は人によってまちまちです。しかし、「よい」と意図した姿勢は「悪い」と意図した姿勢に比べ、特に信頼性が高く評価されました。これは、特別な姿勢のトレーニングを受けていなくても、姿勢1つで相手に与える印象を効果的によくできることを示しています。また、どのくらいの時間で印象がよくなるかを調べるため、写真を見せる時間を変えて評価してもらったところ、0.1秒という非常に短い時間で印象が形成されることがわかりました。姿勢はほんの一瞬で相手に伝わり印象を変えてしまうわけです。

良いとされる姿勢では「信頼性が高く評価」され、しかもその評価時間は「0.1秒」です! 

「信頼できる人だ」と思われるのは、それだけでもすでに成功体験のひとつですし、良い印象を持たれるのは他者からの承認なので、自分の自信に大きく影響します。

相手との信頼関係が築ければ、

・心理的安全性が向上します。
・無理なく自然な会話ができます。
・相手に自分の話を好意的に聞いてもらえます。
・自分の提案に賛成してもらい易くなります。
・保留の場合でも、前向きに検討してもらえます。

営業で「何」を売るかは確かに大事ですが、「誰」が売るかも無視できません。
相手との信頼関係があれば、多少難色を示されても「◯◯さんがそこまで言うなら、じゃあ…」と依頼される場合もあります。
社内でも、仕事を任せてもらえるチャンスが増え、出せる成果もそれに応じて増えて評価が上がり、自信に繋がります。

良い姿勢を心がけるだけで、これらが達成できるのなら、試さないのは勿体無いですよね。

「姿勢」で考慮すべき点

ここでは、注目したいポイントが5つあります。
声、姿勢、ジェスチャー、表情、そして動きです。

(1)声

「姿勢」に声が出てくるのは不思議かもしれませんが、姿勢と声は直接関係していますし、声が与える印象は無視できません。

不自然に甲高い声や、胸から押し出される、喉を締め付けるような力の入った声は、耳に心地良いものではありません。そういう声で話されて、良い印象を持つ人はいないと思います。

ボイストレーナーの金丸明日香さん著書でこう書いています:

“自分本来の声“とは、自分にとっても相手にとっても心地良い声です。“自分本来の声“は身体の構造をありのままに使って出します。身体は人それぞれに違いがありますから、声色には違いが出ます。でも“自分本来の声“には共通点があります。それは、聞く相手に伝えるパワーが非常に素晴らしいことです。(中略) 身体を楽器のように響かせますから“自分本来の声“は本当によく通り、相手にも響きます。身体の構造をありのままに使う自然の声ですから楽に出せ、その出しやすさが相手の聞きやすさに繋がります。(中略) “自分本来の声“と言うのはありのままの自然の声、言い換えれば無防備な声、ヨロイを着ていない声でもありますから、相手に安心感を与えます。 そして声が相手によく伝わる事は「自信」に繋がってきます。相手と意思疎通ができることで信頼感が生まれるからです。

声と姿勢の関係、声の大切さ、そして「自信」がとても良くわかる内容だと思います。

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(2)姿勢

絶対に避けたいのは「下向き」「背中を丸める」です。
デスクワークが多いと、つい肩が前に丸まった姿勢に慣れてしまいますし、スマホ習慣は酷い前屈み姿勢を作ってしまいます。

姿勢の基本は、

・背筋を伸ばして自分の身長の「フルサイズ」で立つ。
・顔は正面に。
・肩を後ろに引き、肩の力を抜いて肩を落とす。
・胸を開く。
・呼吸はゆっくりと腹式呼吸で。

以上です。

ただ、良い姿勢をしようとして、身体の筋肉を緊張させるのは避けてください。
その緊張は相手にも伝わります。

骨格が自分を支えてくれますので、足裏を地面につけ、下から骨を上に“積み上げる“ような感じで身体を真っ直ぐに起こすと、上半身の余分な緊張を抜くことができます。

試しにやってみてほしいのですが、この姿勢だと「自信」が出ませんか?

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(3)ジェスチャー(手の動き)

マイナスなのは、手を後ろに組む(これチャールズ皇太子が緊張隠しに良くしてますよね…)そして、腕組み。

特に、腕組みした上に、後ろに反り返るような上半身の姿勢だと、拒絶を示唆してしまって更にマイナスです。

片手を真っ直ぐ下におろして、別の手でその腕を抑えるのは防御の姿勢になるので、相手にとっては拒絶とほとんど変わらない印象になってしまいます。

意識したいのは「開く」です。

相手に自分の手のひらが見えるようにすると「あなたを受け入れます」というシグナルになります。下の図のようなマリア様を連想すると、なんとなくイメージが湧くと思います。

マリア様

また、手を動かすときには、「コミュニケーションのストライクゾーン」という範囲を意識します。
上は胸の高さ、下はウエストの位置、左右は自分の体の幅くらいです。

左右は、両肘を横に大きく張り出さないのがポイントです。
肘を張るのは「相手を押し退ける」なので、時に攻撃的に見えてしまうのです。

強調したいところなら大きな身振りも効果的ですが、そうでなければ、可能な限りこのストライクゾーンで手の動き収めておくと「落ち着きがなくて忙しない」や「大袈裟過ぎて信憑性がない」といったマイナスの印象を持たれないでしょう。

相手に向けての「指差し」はもちろんNGですし、手をどうしていいかわからないから、話しながらつい振り回してしまう、というのも気をつけた方がいいかと思います。

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(4)表情

「目は口ほどにものを言う」と言いますが、しっかり開いた目は、相手への素直な興味、関心を示します。

私はあなたの話が聞きたいです。
私はあなたをもっと良く知りたいです。

そんな風に思ってくれる相手には、やはり好意的になりますよね。

笑顔は言うまでもなく大事ですが、口元だけでなく「目で笑う」のも大事ですよね。
特に、今はマスクをしている事も多いので、笑顔は目から意識しないと相手に伝わらないので注意したいと思います。

あまり良くないのは、目を細めたり、眉を寄せたり、頭を左右に振る、でしょう。
これらは、怒り、拒否、猜疑心などを示唆しますし、無表情なのも相手を不安にさせるので、あまり良くないです。

「真剣に話を聞いています」「あなたの話に集中しています」というつもりで難しい顔をしているのも、相手には怒りや拒絶に見えてしまう場合が多いので、これもできればやめて、やわらかい表情を意識した方が良いと思います。

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(5)動き

「動き」は言い換えれば「静止画」の連続です。(アニメーション的な…)

(1)から(4)の内容を、個別ではなく一連の流れとして繋げれば、好印象で信頼を持たれる「動き」になります。

…なので、気が抜けないんですよね。
日頃から気をつけて、意識しなくても自然にできるように身につけるのがベストなのだろうと思います。

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以上が「姿勢」で大事になる5つのポイントですが、重要なのは、「私はあなたを受け入れます」「あなたと良い関係を築きたいです」というシグナルを自分から出して、相手との信頼関係を築くところにあります。

プレゼンテーションの姿勢

万全の準備したつもりでも、実際のプレゼンテーションになれば、目の前の人たちの表情や態度に影響されて、緊張したり不安になったりもします。

プレゼンテーションと言っても、状況は様々なので一口に言うのは難しいですが、人の心理として共通する「プレゼンテーションでの注意点」を、Nick Morganの指導を参考にしながら幾つか挙げてみます。

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<動き>

右から左、左から右、…と歩きまわるのはおススメしません。
足に根が生えた」と思うといいです。

どうしても歩く場合は、歩いたらそこに数秒立ち止まり、それからまた歩く…というように、「立ち止まる」を意識すると良いです。

話にアクセントをつけたい場合には「前に出る」が有効です。
ほんの少し前に出るだけで、相手の注意力は刺激されますし、良い意味で興味を持たれ易くなります。
距離が近くなると、心理的距離も近くなるので、「あなたと私」という構図が「私たち」になります。

歩くほどの場所がない場合も「上半身を前に乗り出す」と同じ効果があります。

逆に、後ろに下がる時は注意が必要です。
後ろに下がって相手からの距離を取るのは、心理的にも距離を置くことになるからです。
例えばプレゼンテーションの最後に「質問をどうぞ」と言って、後ろに下がるのは「質問は欲しくない」と言っているのと同じです。

「動き」は「静止の姿勢」以上に注意を引きやすいです。
特定の効果を狙って、意識的に行います。

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<目線>

相手を見ます。

人数が多い場合は、さすがに全員は無理ですが、何人かとは目を合わせます。

やり方は、会場に視線を彷徨わせるのではなくて、1人と目を合わせる(数秒キープ)、そしてまた別の人と目を合わせる(数秒キープ)…というように、目で笑顔を作りながら、規模に合わせて、数人としっかりアイコンタクトをとりましょう。

知ってる人がいれば、その人と目を合わせると、少し緊張感もほぐれるでしょうし、知らない人ばかりでも、何となく好意的な雰囲気を出している人はいるものなので、そういう人を選んでアイコンタクトを取るといいと思います。

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<声>

会議室など、少し大きめの部屋でマイクもない場合、つい大きな声を出してしまいがちですが、あまり大きな声で話さない方が良いです。全員に聞こえる程度、を意識すれば、それ以上の音量は必要ありません。

大きめの部屋で、複数人数いる場合に注意したいのは、声が「届くまで時間がかかる」ということです。ゆっくり話すのを意識するというより、文と文の間に、十分な「間を空ける」のが大事なのです。

言葉が相手に届くと、それは相手に何かしらの「感情」を呼び起こします。そして、相手はその内容について考え始めます。
この思考プロセスの時間を与えないまま、プレゼンテーションを先に進めると、聴く側に消化不良な感じが残ります。そうすると、せっかくのプレゼンテーションが、十分な評価を受けない可能性も出てきます。

プレゼンテーションのマインドセット

プレゼンテーションの姿勢は、言うなれば目的達成のための「道具」です。

より大事なのは「なぜそのプレゼンテーションをするのか?」「なんのためのプレゼンテーションなのか?」です。

「上司から言われたから」と言う人もいるかもしれませんが、引き受けた時点で、それは「自分のプレゼンテーション」であり、会社の、部の、課の、グループの目的は「自分の目的」として扱うべきものになっているのではないでしょうか。

内容はある程度決まっていると思います。
自分で考えたいのは、プレゼンテーションにどんな「感情」で臨み、どんな感情を相手に伝えたいか、です。

プレゼンテーションの30分くらい前から「自分が感じたい感情」と「相手伝えたい感情」を意識して、その感情レベルをキープしてプレゼンテーションに臨むと良いと思います。

聞いている人は、必ずその感情を受け取ります。
実際のところ、人は情報より「感情」を持ち帰るものなのです。

記憶に残るプレゼンテーションには「感情」が大事な要素となります。

さいごに

メリル・ストリープ主演「マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙」(2012年)
という映画をご存知でしょうか?
理想に燃える、まだ少女の面影を残した若いサッチャーが、やがて「鉄の女」になる、その変化(成長)の過程が、今回のブログにとても良く合っているのです。

例えば、サッチャーは、政界に入ろうとしたとき、周りの男性政治家からまともに相手してもらうために、そして勝つために、低い声の出し方、落ち着いた話し方、威厳のある姿勢の取り方などの特訓を受けます。
サッチャーを知らない世代の人でも、「姿勢と自信」について考えさせられ、学ぶところの多い映画です。機会があったら、是非見てください。

…………………………

今回は、いつもと違い、HowTo的な印象だったと思います。

エキスパートの意見や研究結果のほか、私が長年にわたって、様々なビジネスシーン、法曹界、政治、学術といった分野で、多くの人の「姿勢」と「話し方」を見て聞いて、それを通訳として自分の口を通して伝えてきた経験からの知識をシェアしたいと思い、こういう書き方にしました。

少しでも参考になるものがあれば、とても嬉しいです。

感想、意見など、なんでも教えてください。
コメント欄でもメールでも、嬉しいです。

次回は「自信の6要素」の5番目、「対話」です。

また、お話しましょうね。

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